生物多様性の義務化×制度の適用範囲


制度をどこまで適用するかは、理念ではなく、実績データの分布で決まっていくのかもしれません。英国の生物多様性ネットゲイン(BNG)の見直しを読んで、そう思いました。
BNGは、開発にあたって生物多様性を10%以上増やすことを求める制度で、2024年2月に義務化されました。その対象から、2026年8月6日以降の申請では0.2ヘクタール以下の開発が外れます。オンサイトの優先生息地に影響しない場合、という条件付きです。5年以下の一時的な開発も同じ日から外れました。
決め方のほうが気になりました。
英国の環境・食料・農村地域省(Defra)は、政府回答に11ページの「面積除外の証拠付録」を付けています。義務化からの18か月ぶん、イングランドの地方計画当局のほぼ半数から約16,000件の許可済み申請を集め、約3,000件のメトリクスにたどり着き、そのうち約1,000件を精査した、と書かれています。
そのうえで、0.1・0.2・0.5ヘクタールと「小規模開発を全部」の4案を並べ、それぞれで何がどれだけ動くかを推計しています。採用された0.2ヘクタールでは、こうなっていました。
・BNG対象の申請の約51%が除外される(住戸ベースでは約11%、年およそ18,900戸)
・現状に比べて補償されなくなる生物多様性ユニットは約12%
・生息地の面積にすると、全国推計で年750〜3,400ヘクタール(幅が大きく、慎重に読むよう注記あり)
・オフサイト市場は取引が約42%減、市場価値が約10%減
・事業者の遵守費用の節約は年およそ1,740万ポンド(1住戸あたり918ポンド)
付録には、その形になる理由も書いてあります。小規模な開発は「件数の割合は大きいが、影響する生息地の量は小さい」。だから除外をゼロから始めると、動く件数のわりに失われるユニットは小さい。ただし閾値を少し動かすだけで効き方は不釣り合いに変わる、とも。
同じ一つの判断が、件数・住戸数・ユニット・ヘクタール・ポンドという単位の違う数字で書き分けられている。どれか一つだけを見ても、この線がどこに引かれたのかは分からないように思います。
日本でも、地域生物多様性増進法や自然共生サイトが動き始めています。制度が実装の段階に入れば、「どこまでを対象にするか」という問いは必ず来る。そのときに要るのは理念の強さよりも、件数と自然の量を別々に数えられる状態なんじゃないか、と考えています。自然関連のデータを整えておく意味は、開示のためだけではなく、こういう線引きの場面にもあるように感じています。
🔗 英Defra 意見募集の政府回答:
https://www.gov.uk/government/consultations/improving-the-implementation-of-biodiversity-net-gain-for-minor-medium-and-brownfield-development
🔗 面積除外の証拠付録(PDF・11ページ):
https://assets.publishing.service.gov.uk/media/69c3f68193cc6e8b87a6f688/Biodiversity_net_gain_area-based_exemption_evidence_annex.pdf